清水三徳氏(元城北小学校校長)の釣り人生を振り返ります
第1話 《長崎と広島》
 今年もまた「原爆の日」がやってくる。8月6日が広島で、9日が長崎である。
 昭和20年(1945)の8月6日に、私は台湾の高雄にいた。海兵団を経て、海軍の特攻基地で出撃を待っていた時、「広島に特殊爆弾が落とされた。広島は全滅じゃ、こりゃあ大変なことになっとる。」と上官から聞かされた。訳がわからなかった。
 とある長崎の原爆の日に、当時のことを妻に尋ねたことがある。当時長崎の諫早と言う所の近くに住んでいた妻は、学徒動員(勤労奉仕)を風邪で休んでいたそうだ。「ピカピカ」と途轍もない光が走り、同時にムクムクと真っ黒な雲が湧き上がり、途轍もなく形容しようがない音が聞こえたという。周囲で「長崎がやられた、長崎は全滅のようだ。」と人々が叫んでいる声が聞こえてきたそうだ。
 その日から半世紀を越えた今、広島も長崎も立ち直り大都会になった。この原爆の地広島と長崎に縁あって生活をしてきた二人である。私は特攻隊へ、妻は学徒動員へ。友人知人や家族、親戚縁者を容赦なく失い、戦友を見送って二人とも戦いのために苦しい思いをして齢を重ねてきたのだ。日を捲る度に毎年心新たに思う。「戦争はご免だ!」
 戦争という波間を泳ぎ続けてきた私は、妻と共に新たな自分と家庭、そして多くの新たな友と出会う事になった。広島も長崎も海が近く自然が多い。必然的に釣りが盛んだ。私も竿を振る。若き友と競い、釣果や腕前を論じ合う時の子供じみた笑顔や歓声が身にしみて有り難い。『友があり、共に心穏やかであり、街があり、人々が心温かきこと』こそが「平和」であると、今心から思う。全ての事に「ありがとう」である。
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