 |
第4話 《鯉釣り》 |
 |
フナは3尾釣れば一人前と言われるが、鯉(こい)はそう言うわけにはいかない。 |
 |
「鯉を釣るには一日一寸 尺物釣るには十日はかかる」(編注※一寸:約3p、一尺:約30p)という諺(ことわざ)があるが、私は尺物を釣るのに1年かかった。それも熱心に釣り場通いをした結果である。 |
 |
私が川釣りで最後に釣った魚が「鯉」である。台湾に住んでいる頃から鮒釣りに明け暮れていた。何時かは鯉を釣りたいと願っていたが、師匠である祖父の許しがなかなか出なかった。何故かは未だにわからない。結局念願の鯉を釣り上げたのは、随分後で、山口県の錦川、天尾地区の河川敷に泊まり込んだ時である。余りに釣れないので流石に研究した成果がでたものだった。 |
 |
 |
|
 |
台湾で鯉を釣ったことは無かったが、よく食べさせて貰った。台湾での鯉は淡水魚の王と言われ、祝宴等には必ず供する習慣がある。鯉を一尾丸ごと唐揚げにして、肉や野菜等を入れ餡掛け(アンカケ)を施した料理をよく馳走になった。 |
 |
鯉料理には新鮮なものを使う。鯉は生命力が強く、水から離しても水に浸した新聞紙等で包むと2〜3時間は死なない。生血や肝は精力がつくと言われ、父は病弱であった母によく食させていたものだった。 |
 |
鯉を釣るには先ず竹竿作りから始めた。今のように釣具屋があるわけではなく、全て自作しなければならない。エサはサツマイモである。 |
 |
 |
 |
蒸したイモをサイコロ状に切って針に付ける訳だが、イモが上手に蒸かしてなければ食いも悪く、ポイントに投げ込む時に飛んでしまったりした。エサの研究にはおおよそ1年もかかったように思う。サイコロ状のエサから、サナギ粉を混ぜて粘りを出したダンゴに変え、黒砂糖を混ぜたりもした。年季の入った力作のエサを引っ提げて釣った鯉は60p前後のものだった。 |
|
 |
鯉は1年で20〜25pに育ち、3年で60p位になると言われる。私が釣ったのは3年ものであろうが、日本最大の記録(当時)は、全長1.53m、重さ45s、魚齢30年だそうだ。 |
 |
鯉釣りも今は市販のエサが多くあり、配合餌でイモは勿論だが、砂糖や蜂蜜、ニンニク等も入っているらしい。然しこれで釣れれば楽なものであるが、そう簡単にはいかないのが釣りである。やはり仕掛けもエサも創意工夫、独自のもので辛抱強くやらないと釣果も上がらないし、釣り上げたときの感動も強くない。釣りはその日の天候や水温、地形や水、海ならば潮の流れ、さらには魚の気分にも左右されるもので、辛抱と仲良くしなければ結果が現れないものであることは、今も昔も変わらない。 |
 |