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第6話 《台風襲来》 |
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台風の襲来をニュ−スが報じている。「大型で強い台風が西日本に上陸する恐れがある」とのことである。 |
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今朝も日課通り太田川に来た。川は何も変わらずいつもの通り流れている。台風襲来など川の流れからすると考えられそうもない。気配すらないのだが、気がついたのは「アメンボ」の少ないことだ。いつもなら1.5pほどの細長い脚で水面を走るアメンボが沢山いるのだが、今日は僅かしか見当たらない。 |
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アメンボはアメンボ科の昆虫で、飴に似た臭気があることから「飴ボ」と呼ぶようになったとか。また川蜘蛛と呼んでいる地方もあるようだ。水の上を歩きながら、弱って飛べなくなって水面に落ちてきた昆虫を自前の消化液で溶解し吸汁するそうである。水に浮いているのは足に密生している絹糸のような細かい毛が水をはじいているもので、表面張力を利用しているからであろう。 |
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(編者注:アメンボはカメムシ目に分類されるもののうち、水上生活をするものの総称です。種類は多く、海にも分布しています。表面張力で浮いていますから、石けん水等の界面活性剤が含まれる場合は浮くことが出来ず、溺れてしまいます。これは意外でした。) |
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川に行くと、いつも寄ってくるお友達のメダカ達の影も形もない。メダカは好奇心が強いらしく、人も犬も好きなのだ。水に足を入れても逃げようとはしないで、むしろ足もとに寄ってくる。「みんなと一緒に遊びたいのです」そういってまとわりついてくるのだ。そのメダカが今日はいない。川面をとびはねる魚も見当たらない。いつもの川に来て、いつも通り川は流れているのに、住民である昆虫や魚はすでに危険を察知しているのかも知れない。気がついて周りを見渡すと、アユをかけていた釣り人も姿を消している。遊び相手の見つからない犬達もいつもより早く帰って来た。お友達の魚のことを心配してだろうか、川の流れに変わりは無いようでも、魚も昆虫も犬も釣り人も、天変地異を感じているようである。鈍いのは情報に頼っている人だけなのかもしれない。何かしら不気味を覚えた。明日は中国地方に台風がやって来るのかな。 |
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台風は予報とはずれて和歌山まで行ってしまった。彼の地に上陸、紀伊半島、近畿、四国の一部から東海地方を巻きこんで東北へと、列島縦断コースを進むらしい。結局、アレコレと報じられた台風は、勢力を弱めながら東京湾を抜け更に北上、北海道までノロノロと旅をしたようだ、進路に当たった地方の相応の被害を思うと、広島からはずれ杞憂に終わったとは言え申し訳ないような気もする。 |
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ともあれ台風は広島からはずれた。太田川の水の流れも魚もメダカや昆虫も普通の生活にもどっていくだろう。アメンボウは集合場所を変えているようで、その数は半数ぐらいであった。 |
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