清水三徳氏(元城北小学校校長)の釣り人生を振り返ります
第12話 《鰤(ブリ)釣り一考》
 立冬が過ぎると、雪の便りもチラホラと天気予報の画面から出てくるようになり、暦の上では冬を感じる時期がやってくる。これからの数ヶ月は大物釣りの季節となる。
 四国宇和海、現在は養殖漁業が盛んだが、ここの地形・潮回りは北風とともに大型の鰤が廻って来ることで知られている。広島からはフェリ−で松山に行き、法華津峠(ほけつとうげ)を越えて宇和海を目指す。この峠の雪で立ち往生した事も2度や3度ではないが、「ホケツに雪がふりゃ鰤がくる」と仲間内では言われていたものだ。
 「鰤」魚ヘンに師と書いて「ぶり」と呼ぶ。師走近くになる頃から急激に成長し味がよくなってくる。最近までおせち料理の中にはこのブリの「照り焼き」が定番であった様に記憶している。今日は豪勢なものをデパ−ト等で予約するようだが、私には幼い頃は母が、今はその味を覚えてくれた家内が作る「照り焼き」がご馳走である。これに焼酎があれば正月到来である。
 鰤は、出世魚の代表格で、呼び名が関西では「ハマチ」「メジロ」「ブリ」関東では「イナダ」「ワラサ」「ブリ」と成長するにつれて呼び名が変わってくる。当然味もそれに連れて出世していく。寒くなると旬を迎え「寒ブリ」の頭や目玉のところは良い出汁がとれ、腹の部分「ハラモ」の刺身は「砂じり」「霜ふり」と云って最高の味だと言われている。
 近年は船から疑似餌で釣る事も盛んになっている様だが、王道は磯からの生き餌釣りだろう。エサに活きたアジを使うこの釣りは、先ずはエサとなるアジ釣りから始める。アジは鯛釣り等の餌取りとして、エサを採って逃げる俊足を誇っているが、決して生命力の強い魚ではない。
そのため大きなエアポンプ付きの水槽をいくつか準備して行かなければならないので、釣り始める前から体力勝負になってしまう。若手の体力自慢達は、カゴ釣り仕掛けで遠投し、深みを狙うが、そこまでの体力が無い年配者は、如何にアジを巧くポイントに泳がせるかの知力を絞るのである。
 一端針に掛かればあとは日頃鍛えた長期戦で、道糸の出し入れをしながら鰤の体力が弱るのを待つのである。力任せにやると、いとも簡単に道糸を切ってしまう力を持っている。海の綱引きは魚が上手である。生き餌釣りの場合は小物は掛からない。体長70p、重さ6sでも小物扱いである。せめて9sぐらいからが対象となるから、1本釣り上げれば刺身でも、煮ても焼いても充分10人前はある。あとは、料理が出来るのを待つばかりで、焼酎片手に釣り談義に突入なのである。
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