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第19話 《美味なる魚 第2回》 |
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「寒」である。「寒」は二十四節季の小寒の日から立春の前日(節分)までの約30日間を言い、大寒の日がほぼ中間となる期間の総称である。釣師としては、桜のつぼみが膨らむまでが「寒」のように思うが、これは海水温の上がり下がりからくる感覚の話である。 |
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海水温は、季節が冬になったからと言ってそう簡単には下がらない。私が本拠地にしている四国南予中泊地区を渡船基地とする磯釣り場は、四国沖を通る黒潮(暖流)から豊後水道に向かう分流の影響で温かい潮が廻り易く、簡単に冷え込むことはない。 |
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この海水が冷えるのは、中四国地方に雪や冷たい雨が降り、水温が下がった河川の水が瀬戸内海に流れ込み、それによって冷やされた海水が豊後水道の海底側に流れ込むことからである。これは風呂の原理と全く一緒で、熱い湯を水を張った風呂に入れても、温かい水は表面だけで、底は冷たい水のままである。 |
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すなわち、暖流の影響を受けた温かい海水は海面側に流れ、冷やされた瀬戸内海の海水は海底近くに滞るので、これが混ぜ合わされ無ければ海水温は下がらない。この「混ぜる」作業をしてくれるのが冬の季節風と、この時期特有の「時化」である。この結果で海水温が下がるのであるから、節季の「寒」とは少しずれてしまうのは仕方がない。これは雪解け水が無くなる桜の季節まで続くから、その季節までが「寒」であるように錯覚してしまうようだ。 |
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「寒」の時期には魚の身が締まって旨味も増す。但し、魚の活性(食欲)も下がるから、釣り難いことこの上ない。大型魚の「鰤(ぶり)」類は逆に活性が高くなり、良く小型魚を追い回す様になる。「寒ブリ」と呼ばれ重宝されるのは、この時期の脂のよく乗ったものである。 |
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上物釣りで人気の高いグレ(尾長グレ)も、この時期には大型化するが、活性は低く「寒グレ」と呼ばれるほど美味くなっているにも拘わらず、大変釣り難い。 |
夏場には「磯臭い」と食味を敬遠される方でも、この時期のグレは賞賛されるほど美味しい。刺身にしてもよいが、水炊きの主役として登場させれば、これ程美味い磯魚はなかなか見つからない。九絵(クエ)を筆頭に底物の魚が美味くなって、鍋物を彩るのは当然だが、上物では「寒グレ」が最高だと思う。是非にお試しあれ。 |
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