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第20話 《美味なる魚 第3回》 |
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桜の便りが聞かれ始めると真鯛(マダイ)が最も美しく美味しい時期になる。『桜鯛(サクラダイ)』と呼ばれ、全身を美しいピンク、桜色に染めて豊後水道を群れて北上し、産卵場としての瀬戸内海に向かうのである。『桜鯛』とは、この産卵を控えた真鯛のことを呼び、真鯛の最も美味しい旬と桜の咲き誇る時期が揃うことからこのように呼ばれるようになったらしい。 |
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真鯛は、基本的に年中釣りの対象となる魚であるが、磯から釣れるのはこの春先と真夏の夜釣りが最も多い。春先には大物もよく釣れるが、美しい魚体に産卵に備えた栄養をたっぷりと溜め込み、さらに冬の冷たい海で引き締められた中型の真鯛は、得も言われぬ旨さを味合わせてくれる。この時期を外すと、真鯛愛食家には失礼だが、特別上品な旨味は消え、特に産卵後は、俗に「麦藁鯛」とも呼ばれる大雑把な食味になってしまうようだ。これは、地域性があるから一般論にはならないので、個人の感想として受け取って戴きたいが、桜鯛の旬を過ぎた真鯛は、生(刺身)よりも焼くか蒸す料理の法が味が引き立つように感じられる。味は兎も角、見た目の美しさは、季節を問わず「王者の風格」を持っているのは間違いがないだろう。 |
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この桜鯛の時期には、是非シャブシャブを試して戴きたい。寒の時期に「鰤のしゃぶしゃぶ(鰤シャブ)」を好まれ、高評価をされる向きも多いが、春先の桜鯛を使ったそれは、鯛に繊細な旨味をしっかり活かしてくれて、きっと病み付きになることと思う。養殖技術が向上して、養殖鯛が多く店先に出回るようになってきているが、この旬を味わえるのは、やはり自然界からの贈り物だけだろう。 |
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釣味を愛し、その姿を愛で、味を愛しむに相応しい「桜鯛」に是非挑戦していただきたいと願って止まない。 |
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