清水三徳氏(元城北小学校校長)の釣り人生を振り返ります
第23話 《春の海〜3》
 桜も終わり海の模様も冬から春の気配が漂い始めると「ノッコミ」の季節になる。「ノッコミ」とは、冬場に海水温の低下に伴って活動量が少なくなった魚が、安全の為に深場で時を過ごし、海水温の上昇とともに、繁殖期を迎え、産卵のために浅場に戻ってくる状態をいうものである。典型的にその生態が表れ、よく知られている魚には、チヌや真鯛がある。『桜鯛』と呼ばれるのも「ノッコミ」の一つであり、どの魚種にも共通しているのは、産卵に備え体力を付けるために荒食いをする、言い換えれば、釣りやすい状況になることである。深場に移動する際にも、荒食いに近い状況は発生するが、この時期は少々堅い餌でも捕食するが、「ノッコミ」時期には、軟らかい餌を好むようだ。動物の世界も力の強いものが真っ先に餌に有り付けるのだが、この時期の魚も、日頃の警戒心を忘れるのか、老成した大型魚から餌に飛びついてくる傾向が見られる。このためか、この時期に釣れた魚は記録になるものが多い様に思える。
さざえ  私に馴染みの石鯛は「ノッコミ」期に貝類の剥き身を多く餌に用いる。夏場から冬近くまでは、餌取りが多い為でもあるが、貝類は殻付きのまま、それ以外にはウニ(ガンガセ)を主だって使う。この時期の石鯛は、貝の殻を、例えサザエであっても、あの強い歯で割り砕いて身を捕食する。ウニも同様で、あの鋭いトゲを噛みちぎって、最も好物とされる口(芯のように見える部分)に囓りついてくる。堅いとか痛い(?)とかはお構いなしなのである。
 ところが「ノッコミ」期には、これら堅い餌には振り向きもしない。強いて堅いものと言えば、伊勢エビや磯ガニの殻程度なのである。生態論的には様々の説があるのだろうが、不思議なものである。自然界には分からないことが多いものだ。
株式会社 ラディックス
広島市中区西川口町18番7号
Copyright(C) RADIX.Ltd
本ホームページ内に掲載の文章・写真などの一切の無断転載・無断引用・販売等を禁じます。