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第26話 《初夏の海〜3》 |
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磯釣りから離れて、浜釣り(投げ釣り)に寄り道してみよう。初夏から盛夏にかけて狙う代表的な魚に「鱚(キス)」がある。ここで言うのはシロギスのことで、筆者もこれ以外にお目に掛かったことがない。 |
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江戸前の天麩羅料理には欠かせない魚で、初夏が産卵期であるため「夏魚」と思われているが、基本的に年中釣れる魚でもある。昼釣りの対象魚で、初夏から盛夏に書けて浅瀬で群れていることが多いため、海水浴場でもよく目にすることができ、家族釣りには持ってこいの魚である。仕掛けや竿も釣具屋で手頃に揃えることができ、釣りのポイントも砂地であるためトラブルも少なく、子供でも容易に釣ることが出来る。投げ釣りの基本をお復習い(おさらい)するには丁度良い題材となり、子ども向けの「釣り入門編」には必ず載っているものである。 |
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キスは砂地を好むと書いたが、荒磯近くの岩場と岩場の間に点在する浅めの砂地も当然生息域になっている。磯釣りの対象魚にはならないため磯釣り師が狙うことはないが、延べ竿で砂地に餌を這わす釣り方で、結構な釣果を上げる熟練者も見かける。小型のキスを餌にして「鮃(ヒラメ)」を狙う技を披露してくれる芸達者もいるが、ハオコゼのように砂地に棲む毒を持つ魚に手を焼く事も少なく無い。 |
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これは海水浴場の様な場所でも同じであるから、無闇に小魚を捕まえようとしないことだ。また、砂浜で乾涸らびたハオコゼを踏んだり拾い上げてトゲが刺さると、一日中疼き続ける事になるからご用心を。例えその様になっていても毒が消えるわけではないので、釣り上げた魚を無闇に投げ捨てないように御願いしたい。 |
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キスは刺身にしても焼いても美味しいが、やはり天麩羅が一番人気のようだ。中骨も軽く炙るか揚げて小塩を振れば、軽い食感も相まって大変美味しい。磯でキス釣りをする朋輩は、釣り上げたキスの頭を堕とし、背開きにして腑をとり、磯際でキスの干物(本人は「チョイ干し」と言っているが)を作る事を楽しみにしていた。瞬く間に20匹前後を釣り揚げ、手際よく処理して水汲みバケツのロ−プに洗濯ばさみで干すのだが、海水が程良い塩加減としてくれるようで、酒宴の肴には最適のものとなった。問題は、時として鳶(トビ)の襲撃があり、折角の干物を持ち去られてしまうことだ。本人は本来の磯釣りに集中しているため、鳶にとっては「スキ有り」の状況だろう。 |
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砂浜の釣りは開放的で楽しいものだが、仕掛けやゴミを散らかしたままにしておくと、怪我や不快感のもとになり、悲しい思い出になってしまう。どうか使った仕掛けやゴミは持ち帰り、美しい海辺を護って貰いたい。 |
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