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第29話 《真夏の磯つり(2)》 |
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真夏の磯には必需品が3つある。水分補給は前編で述べたが、塩分と糖分の補給も忘れてはならない。これだけでは単に修行僧になるだけであるが、意外な強敵が磯には存在する。ヤブ蚊である。これが一筋縄ではいかないやっかいな存在である。海なのにヤブ蚊がいるのかと訝しがる方々も多いと思うが、意外と磯はヤブ蚊の宝庫なのである。 |
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海面に近い水たまりは「潮だまり」と呼ばれる海水池でヤブ蚊も敬遠するのだが、波を避けて海面から高いところに立つ釣り師の側にある水たまりは比較的雨水が溜まったものが多い。直射日光があたる場所の水たまりは、高温の温泉の様になるから、流石にボウフラは見あたらないが、少しでも陰になる場所にはしっかりと生息している。このヤブ蚊たちの格好の標的が、誰でもない釣り師たちである。 |
夏だから汗をかくのも半端ではない。この炭酸臭に引き寄せられてヤブ蚊はやってくる。彼らは必死なのだから、半端な襲い方はしない。少々の厚手の綿シャツなどいとも簡単に突き抜いて、血を吸い出そうとする。虫除けスプレー等は汗とともに流れ去るから、全く役に立たない。将に生け贄状態になる。 |
もっと拙い状況になるのは、このヤブ蚊を餌にするトンボの襲来である。このトンボの群れを相手に竿を振るのは、なかなかと勇気が必要である、一降りで何匹かが撃墜される羽目になるからだ。ヤブ蚊を叩くことに躊躇はないが、トンボをたたき落とすには気が引けるのである。磯で少し強めの風が吹き抜ければヤブ蚊もトンボも居なくなるが、これはこれで釣り難くなる。 |
そこで、ここで登場するのが昔懐かしい「蚊取り線香」なのである。これこそが真夏の磯の必需品である。当節は家の中で「蚊取り線香」を風流に炊いているご家庭は少ないと思うが、磯ではそうはいかない。自分の周りに狼煙が上がるように置き、煙を絶やさないようにするのが秘訣である。一度の釣りで、ほぼ8巻程度は使用すると考えて丁度良いと思う。磯のヤブ蚊に刺されると、街中のそれとは比較になら無いほど痒い。釣りにならなくなるので、用心に超したことはない。 |
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