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第30話 《真夏の磯つり(3)》 |
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真夏の磯には危険が多いが、この時期にしか出来ないものに一昼夜の通し釣り(夜釣り)がある。夜釣りそのものは、天候が許せば年中試みることは可能な釣りだが、比較的安全で過ごしやすい上に、そこそこの釣果が期待できるのはこの時期が一番だろう。友人達は、夜釣りがしたいのか、磯でキャンプがしたいのか判らないような準備で、大挙して磯を楽しんでいる。これも一つの楽しみ方だが、当然灯りはないし、足下は不安定であるから、気遣いは陸のキャンプ場の比ではない。十分に安全策を講じておくことである。 |
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真夏の磯にある危険性は、熱中症があることは先に記した。次いで考えなければならないのが、気候の急変である。夕立・落雷がこの類に入る。滅多にないが、地震が起きて津波に遭遇することとて無いわけではない。何が起きるか判らないこと自体が危険の因なのであることを忘れてはならない。一例として、日本海での体験を挙げておこう。真夏の日本海は、冬場とは全く様変わりする。海面は将に鏡のように凪ぎ、灼熱の照り返しとともに、噎せ返るような風を送ってくる。夜には漆黒の闇となり、夜光虫が「ここは海だよ。」と教えてくれなければ、そのまま歩いて行ってしまいそうなほどである。 |
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ある時、手頃な鯛を数枚揚げ、ほどほどの釣果と満足して寝床に着いた。寝床と言っても磯の窪みであるが、海面から10メートル程の大きな磯の頂上近くである。上るのには苦労したが、安定した寝床を確保し、10数名の仲間におやすみを言って、満天の星空に包まれた夢心地の気分であった。突如けたたましい複数のホイッスルで目が覚めた。突然の高波に襲われ、クーラーや竿、その他の小道具類が根こそぎ海に掠われている。仲間も頭から潮を被り、救命ロープで安全を辛うじて確保している状況である。駆け上がった大波は、私の足下まで押し寄せていた。時刻は午前2時過ぎ、それは満天の星空の下で起きた、予想も付かない突発事象であった。 |
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幸い人の被害は無く、ずぶ濡れになっても季節柄風邪もひかないで済んだ。神様がクシャミをしたような大波一発だったが、将に何が起こるか判らないことの証明であった。道具やクーラー等の被害は惨憺たるものとなったが、命に代えられない授業料として諦めた。気をつけても、人知に勝る自然の猛威である。夜釣りには十分すぎる安全策を施して貰いたい。命あっての云々である。ご用心を! |
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