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第45話 《今年の秋は・・・》 |
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秋酣である。各地では運動会や秋祭りが一斉に行われ、我が家の周りにも「奉寄進」と染め抜いた旗指物が角々にはためいている。今日は子供御輿も登場して、町内を練り歩いていた。当然、我々が子供の頃とは随分趣が変わってしまっているが、やはり祭りは楽しい物だ。暗く聞き苦しいニュ−スが多い昨今だが、今年も秋の祭り囃子が元気づけてくれるようで、少しは笑顔にもなれるだろう。 |
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秋を旬とする魚に『赤羽太(アカハタ)』がいる。この時期に定置網に時々掛かる魚で、間違いなくハタ科なのだが、それ程大型にはならない(平均で30p程度とか)らしい。一般的には石鯛釣りの外道として釣れることが多いと書物には記載されているが、実は私も、友人達も釣りでお目に掛かったことがない。 |
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常宿にさせて貰っている船頭さんの家で、ご馳走になって秋を知らされる魚なのである。刺身で食すると、鮮度の良い状態ならば実に美味しいが、なんと言っても煮付けにすると、その旨味は筆舌に尽くし難いものがあるほどのものを醸し出す。やはりハタ科の魚である。鮮度が少しでも落ちると刺身には向かないが、煮付けならば問題は無い。蒸して中華風の味付けをしても問題なく美味しい。朱色の鮮やかな魚体は、お目出度い席にもよく似合うものだが、失礼を顧みずに申し上げれば、寿司ネタだけには遠慮して頂きたいものである。 |
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ハタ科だけでなく、魚料理と言えば煮付けと言って憚らない友人がいる。底物を好む釣り師であるが、釣るより食する事が大好きな好漢である。常宿にさせて貰っている船頭さんの奥方は、彼が来ると頭を抱えるそうだ。魚が豊漁ならば夕餉の酒肴はすぐに定まるのだが、不漁の時は何を煮付けていいか困ってしまう。彼は、先ず煮付けに箸を付ける。次いで、煮付けの出汁でご飯を頂き、最期に骨を集めて汁を作り、これを頂いて終わる。跡には見事な骨だけが残っているのだが、酒豪で大食漢であるため、小魚の煮付けでは量が足らない。この煮付けを食べ終えてからでないと酒盛りを始められないから、小魚だと酒量が鰻上りになってしまい、周りにいる流石の酒量自慢の友人達でも太刀打ち出来なくなる。この季節、彼が最も好み、周りの友人達が和むのが『赤羽太(アカハタ)』なのである。質、量共にお薦めである。 |
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