清水三徳氏(元城北小学校校長)の釣り人生を振り返ります
第49話 《『寒』去りて『小春』来たりなば・・・》
 『小春』とは陰暦の10月、太陽暦では11月を指し、冬に向かう寒さが一段落した時の穏やかで暖かい天候のことに用いる冬の季語である。決して春先に用いる言葉では無いと承知しているが、『寒』の寒さが一段落し『春』の到来に想いを馳せる気分には最適な言葉ではないかと思い使わせて戴いた。
 さて、春が旬として釣りの対象となる魚に『黒曹似』(クロソイ)がいる。『眼張』(メバル)のごく近い親戚で日本各地に生息し、この時期の磯釣り対象魚としては、十分大型(30〜60p)になるものである。中小型のものは見た目こそ『眼張』そのままであるが、目の下に棘があることで区別ができる。体色はクロっぽく「タケノコメバル」と呼ばれることもあるが、これは筍と旬が同じであることが語源のようである。
たまごとじ 因みに「旬」とは、一ヶ月を上旬・中旬・下旬と分けた表記をする場合に用いるように、「凡そ10日」という単位の意味を持つ文字で、タケノコは地表に顔を出して10日もすれば竹になってしまい食べられなくなるとの意味から「筍」となったそうだ。真偽は定かではないが、メバル族の魚と筍は実に相性が良く、魚の出汁に筍を加え、魚の白身とサヤエンドウを共に玉子で綴じて山椒の葉を添えれば実に美味しく香り豊かな春らしい一品が出来上がる。
 クロソイは白身の美味しい魚である。刺身で味わうと、えも言われぬ味があり、幸福感を得ることができる。惜しむらくは鮮度落ちが非常に早く、刺身で食するには食卓近くまで活魚で持って帰る必要がある。当節はエアポンプ付きの蓋付きバケツが簡単に手にはいるから、海水とビニ−ル袋で水漏れしないようにした氷を入れて活かしたまま運ぶことも難しくない。旨い物を味わいたいならば、多少の苦労は厭わぬ方がよい好例である。 黒曹似
 磯で狙うソイは、底物釣りの応用編で大型狙いになるが、仕掛けは実にシンプルである。エサは、底物釣りの餌を少し拝借すれば事足りる。底物(根魚)の大物を狙って渡磯する友人達は、ちょっとしたお土産として、また、その日の夕餉の酒肴として、ソイを1匹ぶら下げて帰ることが多い。焼いて良し、煮付けてまた良しの重宝な魚である。
 毎度で恐縮だが、美味しいソイの味わい方を一言。白身で味に癖のないソイは、酒蒸しがお薦めである。昆布を敷いた蒸し器にソイと豆腐、シメジ等のキノコ類、忘れてはいけない筍を入れ、魚体の上から酒をふりかける。後は普通に蒸して、出来上がればポン酢が良く合う。これも春の味である、お試しあれ。
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