清水三徳氏(元城北小学校校長)の釣り人生を振り返ります
第52話 《夏本番》
 今年の猛暑も予想通りだが、意外に天候が落ち着かないようだ。蝉も出番を図っていたようで、なかなか本番の喧しさにはならない上に、庭では上手く脱皮できずに力尽きた蝉が、例年より遙かに多く見受けられ、気象状況の不安定さを象徴している。西日本では週末毎に台風や前線が顔を出し、なかなか釣行に踏み切れないと、欲求不満気味の友が嘆いていた。春以来、誰彼の見境無く、気忙しさだけが纏わり付いているようだ。
 とは言え、海に行けない磯釣り師は絵にはならないので、手近な沖波頭(防波堤)に出掛けてみた。お供は二人、家内には「黄門様の漫遊記」と揶揄されながらの釣行である。狙いは勿論内海とは言え、『石鯛』である。

 防波堤は、足場は磯に比べて平坦で安定感は良いが、構造物の性格上、海面からは非常に高く、陽射しを遮るものは全く無い。コンクリートの白い面から照り返しも厳しく、真夏には鉄板焼き状態になる。
勿論我々は「具」である。
 若い友人達は、クーラーに飲み物と氷を十分確保すると共に、足下には筵を敷き、ビーチパラソルを備え付けて照り返し防止と日陰を確保してくれた。後は釣るだけである。ここからは年齢差は関係ない。こちらが獲物を選ぶか、獲物がこちらの餌を選ぶか、はたまた空振りかのどれかが答えである。繰り返すが狙いは『石鯛』である。
 厳しい陽射しの中、些か涼風とも思える風に嬲られながら閑かな時間を過ごすこと暫し。突然友の竿が海面に突っ込んだ。石鯛特有の前当たりもなく、然りとて海底目指してぐんぐん突っ込むのは半端なチカラでは無い。竿を預けたピトンもその怪力を支えることが適わず、徐々に海にむかってお辞儀をし、その姿勢も深く深くなっていく。それどころか竿を持つ釣友の尻が上がり、自由形競泳のスタート、あの飛び込みの姿勢になっていきつつある。ここは防波堤の上、磯と違って踏ん張る為の岩礁の突起や、捕まる岩も無い。慌ててもう一人の友が彼の腰にしがみつき、私がその後ろにぶら下がる。まるでロシア民話の「おおきなかぶ」(作:A・トルストイ)の様である。3人合わせれば約200s(?)である。これが徐々に徐々に引き摺られていく・・・・何物だい????
 闘うこと暫し、やっと何とか海面に引っ張り出したのは、優に1mは超える白い影。寒鯛(かんだい)、通称コブダイ(瘤鯛)である。石鯛釣りの外道としてちょくちょく参加するベラ(ギザミ)の親戚である。雌性先熟種で子供の頃は全て雌であるが、50pを超えるとコブが張り出してきて、オスに性転換するそうだ。成魚の雄は、その名の通り巨大なコブ(瘤)が頭の上に突き出しており、雌や縄張りを争って互いの瘤をぶつけ合って闘う。そうは言っても性格は総じて温厚で、何処かの観光地では人に慣れて餌附けも出来たる程のものだ。釣味は強い引きが魅力だが、食味は淡白すぎて人気が高くない。楽しんで釣り上げて、がっかりして放流のタイプである。
 旬は冬で小骨が少ないことから鍋材には適しているが、我が食いしん坊の釣友は余り薦めない。身が柔らかいこともあり、高齢者の方には食べやすい魚である。一口サイズに揃えて酒蒸しやフライにされる方がよろしいかと思う。
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