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第41話 《目に青葉〜初夏の賑わいに》 |
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「目に青葉、山ほととぎす初鰹(はつがつお)」江戸時代初期の俳人、山口素堂の名句である。桜の余韻を楽しむ間もなく眼前に拡がる青々とした若葉の季節を表して爽やかな気分を醸し出す句である。ただこの季節になると必ずこの話題となるものでもある。(編者注:第25話参照) |
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一般に呼ばれるカツオはマガツオ(真鰹)で、学術的にはスズキ目サバ科カツオ属に属する魚で、1種のみでカツオ属を形成している。暖海・外洋性の大型肉食魚で、大型のものは体長1m以上、約18sにも成長するそうだ。一般的に店頭に出回るものは50p程度が主体であるから、意外に感じられる。 |
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類似種には、ソウダカツオ、スマカツオ、ハガツオなどがあるが、これらの区別は側線や腹部に浮き出る縞模様である。食味はそれぞれに特徴があり、漁師にも好みが分かれるようだ。 |
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鰹の時期に相対的に話題となるのが鮎(アユ)である。6月には中国地方の大半の河川で解禁になる「鮎の友釣り」は、一度手を染めたら止められないと愛好者は口を揃える。海釣りの熟練者にも鮎釣りの愛好者は多いが、残念ながら私はその経験が無いので、ここではその醍醐味は伝えられない。仲間内には、この時期仕事そっちのけで中国地方の主立った河川に出かけて行く家庭内争議の常習犯もいるが、それぞれの好みに意見は無用の様である。彼らは、香魚とも呼ばれる鮎こそ初夏の代表魚と主張して止まず、その容姿の美しさと塩焼きの旨さを力説する。 |
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基本的に山育ちの友は鮎を好み、海育ちの友は海の魚を好むのは道理であるが、高知や紀州、鹿児島を故郷に持つ友は、揃って鰹派である。私もそうだが、酷寒の磯に底物を狙う友は島育ちであるため、川に湖沼に海も相手にして育ったためか、鮎と鰹のどちらにも軍配は上げ難い。引き分けと言うわけではないが・・・・旨いものは旨いとしか言えないかなと思う。 |
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鮎と鰹の共通点に−食味に限っての話であるが−塩辛がある。鰹の塩辛は『酒盗』であり、鮎のそれは『うるか』である。どちらも酒飲みには堪らない食材ではあるが、特に『うるか』は、鮎の捕れた河川毎に微妙に味や香りが違うようだ。鮎自慢が河川自慢となる所以かとも思える程、その差は顕著で、私も手作りのものまで含めると随分食してきたが、実に上品な苦みが有り難く感じられる。『酒盗』は、文字が表す通りの強者の味があり、大人にならないと理解できない味とも言えるだろう。私や友人達は高知の漁師が送ってくれる『酒盗』に惚れ込んでいるが、家内や友人の奥方連は塩焼きの鮎や『うるか』を好んでいる。何れにしても初夏の賑わいには欠かせないもののようである。 |
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